ぼうしつちゅうかくけっそんしょう
AVSD (Atrioventricular Septal Defect)
房室中隔欠損症
1.心臓のきほん
2.房室中隔欠損症について
房室中隔欠損症(AVSD)は心房と心室の両方の間の壁が完全にできあがらず、両方の壁に孔があり(後で詳しく説明しますが、不完全型房室中隔欠損症では心室の壁には孔はあいていません)、心室と心房にある弁(三尖弁と僧帽弁)にも異常がある病気です。
心房の間に孔があいている心房中隔欠損症(ASD)と、心室の間に孔があいている心室中隔欠損症(VSD)が両方あることがありますが、弁の異常はなく、房室中隔欠損症とは異なります。
なお、以前は「心内膜床欠損症 」と呼んでいましたが、近年は世界的に「房室中隔欠損症」と呼ぶようになりました。
正常
3.どうしてこんな形になるの?
先天性心疾患の中には、たくさんの病気の種類があります。そして、それぞれの病気によって心臓の形はちがいます。どうしていろんな形の心臓があるのでしょうか?(3分26秒)
音声が出ます
動画で説明しているとおり、病気の種類がたくさんあるのは、心臓が完成するまでの複雑な過程のどこかの異常で少しずつ違う形にできあがるからです。房室中隔欠損症がこのような形になるのも、心臓が完成する途中に原因があります。
心臓は、最初は心房と心室の間に壁がないのですが、上下から壁が伸びて完全にくっつくと、心房・心室が左右に分かれます。この上下から伸びる壁が完全にくっついていない状態が、房室中隔欠損症です。
心房と心室の間の三尖弁と僧帽弁は、最初は1つの弁ですが、上下の壁がくっつくときに、2つの弁に分かれます。房室中隔欠損症は、上下の壁が完全にくっついていない状態のため、僧帽弁と三尖弁にも異常があります。
4.完全型と不完全型
房室中隔欠損症は大きく2つのタイプに分かれ「完全型」と「不完全型」があります。完全型は下から伸びてくる壁が弁の高さまで届かず、心室中隔にも心房中隔にも孔が残り、弁も1つのままの状態です。不完全型は下から伸びてくる壁は弁の高さまで届いたけれど(このため心室中隔欠損は認めません)、心房中隔はくっつかず、弁は2つに分かれてはいるけど完成途中の状態です(さらに中間型と呼ばれるものもあります)。
房室中隔欠損症について動画でも説明しています。
音声が出ます
完全型房室中隔欠損症は、21トリソミー(ダウン症候群)に合併しやすいことが知られています。またそれ以外の染色体異常や、無脾症候群、多脾症候群にも合併しやすいです。
5.どんな症状が出るの?
症状の出る時期は「孔の大きさ」と「弁の逆流」の程度によって違います。 完全型のほうが、孔が大きく、弁の逆流が強いことが多いため重症です。不完全型は心室中隔欠損がなく、弁の逆流も少ないことが多いため、完全型に比べると症状は軽く、大人になるまでほとんど症状がないこともありますが、弁の逆流が強くなると症状が出てきます。
症状は、おもに心不全と肺高血圧の症状で、赤ちゃんの頃から症状がある場合は、ミルクをたくさん飲めない、体重が増えない、呼吸が速い、などの症状が出ます。大人になってから症状が出る場合は、息切れや動悸、疲れやすい、足がむくむ、動悸がする、などの症状が出ます。
-
元気がない、ぐったりしている、機嫌が悪い
-
体がむくむ(顔やまぶたなど)
-
おしっこの回数や量(赤ちゃんであればオムツ替えの回数)が少ない
-
体重が急に増える
-
手足が冷たい、じっとり汗をかいている
-
顔色が悪い
-
呼吸が苦しそう、呼吸が早い、痰がゴロゴロしている
-
食欲がない、ミルクを飲む量が少ない
-
おなかが張っている
-
吐き気がある、または吐いている
赤ちゃんの心不全の症状
赤ちゃんは自分で「苦しい」と言えないのでこのような症状があれば病院に相談してください
大人の心不全の症状
疲れやすい
息切れ・動悸
むくみ
体重が増える
食欲がない
など
どうしてそんな症状が出るの?
完全型
不完全型
6.手術の方法は?
根本的な治療は基本的に手術です。手術のタイミングは、赤ちゃんの頃から心不全や肺高血圧の症状があれば、早めに手術を検討します。
ただし、赤ちゃんの弁は非常にもろく弱いため、薬などで心不全の治療をして体重が増えるようだったら、体重が増えるのを待って手術することもあります。体重が小さすぎる場合や、他の心臓の病気がある場合などは肺高血圧にならないよう、肺への血流を少なくするために、まず「肺動脈絞扼術」を行って、その後に修復術を行うこともあります(肺動脈絞扼術に関しては、「どうして何回も手術が必要なの?」をご覧下さい)。
また、完全型房室中隔欠損症のうち、片方の心室が小さい場合などでは、修復術が「フォンタン手術」になることもまれにあります(フォンタン手術に関しては「フォンタン手術について」をご覧ください)。
大人になってから手術をする場合、僧帽弁の逆流がひどいことがあり、僧帽弁形成術や僧帽弁置換術が必要になることがあります。また、不整脈があれば、不整脈に対する手術も一緒に行って症状をよくすることもあります。
一般的な手術に関する説明は、それぞれのページをご覧ください。
房室中隔欠損症の修復術
修復術で行うのは、おもに以下の2つです。
-
心房中隔、心室中隔の孔を閉じる(壁を作る)
-
弁を正常に近づける
1. 心房中隔、心室中隔の孔を閉じる(壁を作る)
2. 弁を正常に近づける
房室中隔欠損症の修復術でおきやすい合併症
・肺高血圧発作
術前に肺高血圧があると、手術をした直後(手術の当日から数日後)に肺高血圧が急激に悪化して、肺に血液が流れなくなり、さらには体にも血液が流れないショック状態になることがあります。
・房室ブロック
心臓が効率よく血液を送り出すために、心臓の中の電気の通り道である「刺激伝導系」が電気を伝えてリズムをとっています(刺激伝導系については「不整脈の種類と治療」をご参照ください)。この刺激伝導系の通る場所が、房室中隔欠損症では正常とは大きく異なり、手術で縫う場所の近くを通っているため、これを傷つけると電気が伝わらなくなり(= 房室ブロック)、場合によっては手術の後にペースメーカーの植え込みが必要になる可能性があります。
・弁の逆流が残る
手術で弁を修復するのが難しい場合があり、手術のあとにも弁の逆流が残ることがあります。逆流がだんだん悪くなり、数年〜数十年たってから、もう一度手術で弁を修復(弁形成)したり、人工の弁に取り替えたり(弁置換)することもあります。
・左心室の出口が狭くなる
房室中隔欠損症の心臓の形の特徴から、左心室の出口が狭くなる(左室流出路狭窄)場合があり、これによって心臓への負担が強くなる場合は、もう一度手術することがあります。
7. 手術の後は?
完全型房室中隔欠損症は、弁の状態、他の心臓の病気がある場合、手術の前の肺高血圧の程度などによって、それぞれで症状は大きく違いますが、手術後は弁の逆流が少なければ、元気に過ごすことができます。運動制限や薬の内服は、病状によって違うため、主治医に確認してください。
不完全型房室中隔欠損症は、弁の逆流が悪化する前に手術をすれば、ほとんどの人が普通の人と同じように特に制限なく過ごせます。
ただし、前述のとおり、手術のあとにも弁の逆流が残り、逆流がだんだん悪くなると再手術が必要になることもあります。また、大人になってから、弁の逆流や小さい時の手術の影響で不整脈が出ることもあり、動悸などの症状が出ることもあります。適切なタイミングで治療ができるように、そして、ずっと元気でいられるように、定期的にきちんと病院にかかるようにしましょう。
参考ページ
房室中隔欠損症の手術の後では(特に完全型)、弁の逆流や、心臓の中の修復の時に使った人工物(パッチなど)などが原因で「感染性心内膜炎」になることがあります。
感染性内膜炎は、時に長期間の入院や、命にかかわるような大手術が必要になることもある、恐ろしい病気です。注意することなどについては下記のページで説明しています。
参考ページ
また、房室中隔欠損症の人が成長して、妊娠・出産を考える年齢になった時に、気をつけてほしいことについては、下記のページをごらんください。
参考ページ
あなたにとって最もよい治療法を、
主治医の先生とよく相談して決めましょう。
最終更新日: 2024.1.30