ファロー四徴症
ふぁろーしちょうしょう
TOF (Tetralogy of Fallot)
1.心臓のきほん
ファロー四徴症について学ぶ前に、いくつか知っておいたほうがよいことを、順番に説明していきます。まずは、心臓の4つの部屋とその役割、どのような順序で血液が体を流れているのか?などについての動画です(5分20秒)。
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2.どうしていろんな形の心臓があるの?
先天性心疾患の中には、たくさんの病気の種類があります。そして、それぞれの病気によって心臓の形はちがいます。どうしていろんな形の心臓があるのでしょうか?(3分26秒)
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3.ファロー四徴症について
それでは、ファロー四徴症について説明してきます。
1888年にフランス人のファロー先生が、4つの共通した特徴を持つ病気を報告し、「ファロー四徴症(Tetralogy of Fallot:TOF)」と名つけられました。

ファロー先生(Dr. Arthur Fallot)
ファロー四徴症の特徴的な症状は「チアノーゼ」です。
動画では「チアノーゼ」はどのような状態なのか、どうしてチアノーゼの症状が出るのかを説明しています(3分28秒)。
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先天性心疾患を大きく2つに分けると、チアノーゼのある病気と、ない病気とに分けられますが、チアノーゼのある病気を「チアノーゼ性心疾患」、チアノーゼのない病気を「非チアノーゼ性心疾患」と呼びます。ファロー四徴症は、チアノーゼ性心疾患の中で一番頻度の高い病気です。

日本小児循環器学会 2016年 新規発生先天性心疾患・希少疾患サーベイランス調査結果より
ファロー四徴症の、4つの共通した特徴は、
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大動脈騎乗 (だいどうみゃくきじょう)
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心室中隔欠損(しんしつちゅうかくけっそん)
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肺動脈狭窄(はいどうみゃくきょうさく)
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右室肥大(うしつひだい)
です。
どうして4つの共通した特徴になるのか?どうしてチアノーゼになるのか?
について、動画で解説します(3分33秒)。
*この動画を見る前に、動画「どうしていろんな形の心臓があるの?」(前述)を見ると、内容がわかりやすいです。ぜひ、先にご覧ください。
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心室中隔欠損症だけでは、酸素の少ない静脈血が動脈血に混ざらないためチアノーゼにはなりません。 ファロー四徴症は、右心室の出口が狭く、大きな心室中隔欠損があるために右心室と左心室の圧が同じになり、右心室と左心室が両方向に血液が流れるようになり、酸素の少ない静脈血が動脈血に混ざるため、チアノーゼになります。
心室中隔欠損

ファロー四徴症

無酸素発作とは?
ファロー四徴症の特徴的な症状のひとつで、泣き続けたり、いきんだりすると、急に顔色が悪くなったり、ひどいときは意識を失ったりします。
これは、泣いたり、いきんだりした時に、右心室の出口が急に狭くなり、いつも少ない肺への血流が、更に減ってしまってチアノーゼが極端に悪くなるために起きます。
脱水の時、熱が出ている時などになりやすく、この発作は繰り返されることが多いです。何度も発作がおきるときは、発作をおきにくくする薬を飲むこともあります。
ファロー四徴症でこのような症状がある場合は、必ず主治医に相談してください。また、なるべくこの発作が起こらないようにするために、脱水には気をつけて、熟眠後やお風呂上がりには水分を取るようにしましょう。急に顔色が悪くなった時は、手足を小さく曲げた状態で抱っこをするとよくなることがありますが、早めに病院にかかってください。

4.治療や手術のタイミングは?
同じファロー四徴症の中でも、治療や手術のタイミング、手術方法は病状によって大きく違います。その一番の違いは「主肺動脈の太さ」によります。主肺動脈は、肺動脈が左右に分かれる前のところのことです。

主肺動脈が比較的太い場合

主肺動脈はふつうよりは細いですが、ファロー四徴症の中では比較的太い場合は、チアノーゼの症状は目立たず、体重も増えていきます。
チアノーゼが進んだり、体重が増えにくくなったりした時や、修復術を行える体重まで育った時に、手術を行います。
手術:ファロー四徴症修復術
※手術方法は後で説明しています
主肺動脈が細い場合

主肺動脈が細い場合、生まれたばかりの時からチアノーゼの症状が出ます。チアノーゼが強い、肺動脈全体が細い、無酸素発作を繰り返す、などがあれば、修復術を行う前の準備手術(姑息手術)の「BTシャント術(体肺動脈短絡術)」を行います(姑息手術、修復術については、動画「どうして何回も手術が必要なの?」をごらんください)。
修復術の術式は、もともとの肺動脈や肺動脈弁の大きさにもよります。
手術:
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BTシャント術(体肺動脈短絡術)
※ 複数回行うこともあります -
ファロー四徴症修復術または、ラステリ手術
※手術方法は後で説明しています
主肺動脈がない場合

肺動脈の入り口が完全に閉じていて、主肺動脈がない場合があり、これを「ファロー四徴症極型(極型ファロー)」または「肺動脈閉鎖兼心室中隔欠損」と呼びます。
生まれたばかりの時からチアノーゼの症状が強く、肺への血流を維持するために、赤ちゃんの時から点滴をする必要があります。点滴をしないと肺に血流が流れなくなるため、早めに準備手術(姑息手術)の「BTシャント術(体肺動脈短絡術)」を行います。
「ファロー四徴症極型 (肺動脈閉鎖兼心室中隔欠損症」の中には、左右の肺動脈の枝が大動脈などいろんな場所からバラバラに出ていることがあります(主要体肺動脈側副血行 MAPCA: Major aortopulmonary collateral artery と言います)。これがある場合は、バラバラの肺動脈を集める手術(肺動脈統合手術 unifocalization)を行います。
手術:
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BTシャント術(体肺動脈短絡術)
(必要があれば)肺動脈統合手術 unifocalization
※ 複数回行うこともあります -
ラステリ手術
※手術方法は後で説明しています
5.ファロー四徴症の手術方法は?
ファロー四徴症修復術
ファロー四徴症の修復術では、
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心室中隔欠損を閉じる(心室中隔欠損孔閉鎖)
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右室の出口から肺動脈にかけてを拡げる(右室流出路形成)
を行います(心臓手術の流れについては「心臓手術の流れ」のページをごらんください) 。
1.心室中隔欠損孔閉鎖は、あて布(パッチ)を使って縫い閉じます。
心室中隔欠損孔閉鎖

2.右室流出路形成は、もともとの肺動脈や肺動脈弁の大きさによって細い手術方法が違ってきます。
右室流出路形成
肺動脈弁や肺動脈の太さが正常の70〜80%以上ある

肺動脈弁や肺動脈の太さが
正常の70〜80%より細い

BTシャント術(体肺動脈短絡術)
「4.治療や手術のタイミングは?」で説明したとおり、同じファロー四徴症の中でも、治療や手術のタイミングは大きく違います。
主肺動脈が比較的太い場合は、1回でファロー四徴症修復術を行います。しかし、主肺動脈が細い場合や、主肺動脈がない場合は、肺の血流が少なく肺の血管が育たないため、修復術を行う前に準備手術(姑息手術)の「BTシャント術(体肺動脈短絡術)」を行います(くわしくは、動画「どうして何回も手術が必要なの?」をごらんください)。
BTシャント術は、肺の血流量が少ない病気で、肺の血流量を増やすために、腕への動脈の血流の一部が肺に流れるように、腕への血管と肺動脈を人工血管でつなぐ手術で、ファロー四徴症だけでなく、肺の血流量が足りない時に、他の病気でも行う手術です。
手術の後、さらに肺の血流が足りない場合(体が大きくなると、そのぶんたくさんの肺の血流が必要になるため足りなくなることがあります)、BTシャント術を追加したり、人工血管を太くしたりすることもあります。
手術は、胸骨正中切開で行う時と、側開胸で行う時があります(胸骨正中切開、側開胸については「心臓手術の流れ」のページをごらんください)

ラステリ手術
ファロー四徴症の中でも、主肺動脈が非常に細かったり、ファロー四徴症極型( 肺動脈閉鎖兼心室中隔欠損症)のように、主肺動脈がなかったりする場合があります。
このような場合に、右心室と肺動脈の間を、肺動脈弁が中についた人工血管でつなぐ手術を「ラステリ(Rastelli)手術」と言います。

6.手術が終わったあとは?
これまで説明してきたように、同じ「ファロー四徴症」でも、手術方法はいろいろあります。手術が終わったあとの経過も、それぞれの病状で違います。
手術をしてしばらくしてから(多くは10年後以降)何か問題があってもう一度手術をしたほうがいい時、不整脈の治療が必要になる時などがあります(表1)。必ず専門医に定期的にかかるようにしましょう。

「特に症状がないから」と定期的に病院にかからず、急に具合が悪くなって受診した場合、かなり病状が悪くなっていて、薬や手術などの治療が必要で、その後の生活に影響することが多いです(治療ができないほど悪くなっていることもあります)。
参考ページ
表1:ファロー四徴症の手術後に問題となること
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肺動脈弁の逆流がひどく、右心室の動きが悪くなる
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肺動脈や右心室の出口が狭くなる
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不整脈
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心室中隔欠損症が残っている
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大動脈弁がもれる
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感染性心内膜炎
など
ファロー四徴症の手術では、人工血管などの人工物を使うため「感染性心内膜炎」になることがあります。感染性内膜炎は、時に長期間の入院や、命にかかわるような大手術が必要になることもある、恐ろしい病気です。注意することなどについては下記のページで説明しています。
参考ページ
また、ファロー四徴症の人が成長して、妊娠・出産を考える年齢になった時に、気をつけてほしいことについては、下記のページをごらんください。
参考ページ
ずっと元気でいられるように、通院や内服の継続が必要な場合は、必ずきちんと病院にかかるようにしましょう。
あなたにとって最もよい治療法を、
主治医の先生とよく相談して決めましょう。

最終更新日:21.02.07