心臓手術の流れ

心臓の手術は、手術の内容によって違いますが、短くても3〜4時間、長い場合は10時間以上かかることもあります。手術が終わるのを待つご家族にとっては、とても長く不安な時間だと思います。手術室では、どのようなことをしているのかについて説明していきます。

 

心臓手術は大きく分けて2種類あります。人工心肺(後ほど説明します)を使って心臓の中の手術を行う「開心術(かいしんじゅつ)」と、人工心肺を使わない「非開心術」がありますが、ここでは「開心術」の流れを説明します。

手術室へ

手術室にはいる予定時間にあわせて、入院している一般病棟を出発します。

手術室に入る前に、お子さんの場合はご家族とともに、医師、看護師で、患者さんの名前や生年月日、手術をする場所などを確認してから、手術室に入ります。

手術の準備

① モニターをつける

手術室に入ったら、心臓が動いているか、血圧は安定しているか、呼吸ができているか、などを確認するためのシールなどをからだにつけて、「モニター」とよばれるテレビのような画面に映し出します。

モニターは、手術中ずっと手術にかかわるスタッフが監視して、安全に手術が行われているかを確かめるのに必要なものです。

② 麻酔をはじめる

手術は、完全に眠って体が動かない状態になる「全身麻酔」と、手術をする部分の痛みだけをとって手術をする「局所麻酔」がありますが、開心術は全身麻酔で行います。

全身麻酔は、痛みをなくし(鎮痛)、完全に眠った状態で手術中のイヤな記憶を残さないようにし(鎮静)、そして、安全に手術ができるように体が動かないように(筋弛緩)します。

体が動かないようにするということは、呼吸をすることもできなくなるため、手術をしている間は機械で呼吸を補助しますが、機械で呼吸をすることを「人工呼吸」といいます。人工呼吸を行うためには、機械から肺に空気を出し入れできるようにするために、口から肺までチューブを入れますが、チューブを入れることを「気管挿管」と言います。全身麻酔の薬を投与した後に麻酔科の先生が気管挿管を行います。

③ 点滴やカテーテルを入れる

心臓の手術では、全身麻酔の薬、心臓の動きを助ける薬(強心剤)などたくさんの種類の薬や、輸血などを使うため、その分たくさんの点滴が必要です。

特に強心剤はふつうの手足にとる点滴からは投与できないため「中心静脈カテーテル」が必要です。中心静脈カテーテルは、太い静脈のある首の横や足のつけ根から挿入します。

《注意》子どもは体が小さいため、点滴やカテーテルを入れるのは大人よりも難しく、時間がかかります。点滴やカテーテルがどうしても入れられない場合は、手術を安全に行うことを最優先にして判断して、やむを得ず手術を中止する場合もあります。

④ 消毒

ここまでの準備が終わったら、皮膚を消毒します。目に見えませんが、実はふだんから皮膚には「常在菌」と呼ばれる菌がたくさんついています。これが、体の中に入らないように、手術をする場所とそのまわりを丁寧に消毒します。

消毒が終わったら、滅菌(菌がいない状態に消毒すること)された布で手術をする場所のまわりをおおって、清潔な状態で手術を行います。手術をする医師や看護師も、マスクと帽子をかぶり、丁寧に手を消毒して、滅菌した上着を着て手術を行います。

ここから、いよいよ手術です。
手術中の流れ

ほとんどの「開心術(人工心肺を使う心臓手術)」に共通する手術の流れ、①〜⑤を、順番に説明していきます。

① 開胸(心臓が見える状態にするまで)

② 人工心肺を始める

③ 心臓の手術を行う

④ 人工心肺を外す

⑤ 閉胸(傷を閉じて手術を終えるまで)

① 開胸(心臓が見える状態にするまで)

心臓の手術をする場合、ほとんどは胸の真ん中をタテにまっすぐに切る「胸骨正中切開」です。胸の脇を切って手術をする「側胸開」という方法もあります。

キズは必要最小限で切るように心がけていますが、キズが小さすぎると手術がやりづらくなり、手術を安全に行えないことがあります。手術を安全に行うことを最優先に考えて、切る長さや場所を決めています。

皮膚を胸の真ん中で真っ直ぐに切ると、まず「胸骨」という骨があります。心臓は「肋骨」と「胸骨」で大切に守られています。

胸骨を縦に切って左右に広げると、心臓をつつんでいる「心膜」があり、その心膜を切ると、心臓が見えるようになり、心臓手術ができる状態になります。

② 人工心肺を始める

心臓は常に動き続けています。心臓が止まってしまったら、体に血液が流れなくなり、 例えば脳に5分間血液が流れなければ、脳はダメージを受けて、脳障害が残ります。

手術をするためには、心臓を止めて、心臓の中をからっぽにして、心臓の中が見える状態にする必要があります。そうすると、肺への血液は心臓から流れるため、肺にも血液が流れず、血液に酸素を取り込めなくなります。このため、心臓の手術をしている間、「心臓」と「肺」の代わりをする機械が必要です。その機械を「人工心肺」と言います。

心臓を止めている間、この人工心肺で確実に全身に血液を送れる状態になってはじめて、安全に心臓の手術が可能になります。

日本小児循環器学会 心臓手術の流れ

心筋保護液とは?

心臓の手術をする時、心臓の動きを止めるために「心筋保護液」という薬を使います(手術の内容によって、使わない場合もあります)。心筋保護液の役目は大2つあり、一つは「心臓動きを止めること」、もう一つは、名前のとおり「心臓の筋肉(心筋)が傷まないように保護すること」です。

動き続けることが当たり前の心臓の動きを止めることは、心臓にとってダメージになります。「心筋保護液」を使っても、心臓のダメージを完全になくすことはできません。心臓を止めている時間が長くなるほど、そのダメージは大きくなります。

③ 心臓の手術を行う

人工心肺で確実に全身に血液を送れる状態であることを確認してから、心臓の手術を行います。手術の内容は病気によって違うため、それぞれの病気の説明をお読みください。詳しい手術の内容については、手術の前に必ず主治医から説明があります。

④ 人工心肺を外す

心臓の中の手術が終わったら、動きを止めていた心臓をまた動かして、自分の心臓で全身に血液を送れるようにしていきます。心臓に血液を満たすと、止まっていた心臓は再び動き出しますが、動き出したばかりの心臓は元気がありません。しばらく人工心肺でサポートをして、心臓の動きを助ける強心剤などの薬を使うと、だんだんに元気が出てきます。自分の心臓だけで十分に血液が送り出せるようになったら、人工心肺を止めて、人工心肺と血管とつないでいた管を抜きます。

《注意》まれに、心臓の手術の後に、心臓の動きがとても悪く、心臓だけでは全身へ十分な血液を送り出すことができない場合があります。その時は、人工心肺または心臓を補助する機械を使ったまま集中治療室に移動することがあります。

⑤ 閉胸(傷を閉じて手術を終えるまで)

心臓の中の手術が終わったら、動きを止めていた心臓をまた動かして、自分の心臓で全身に血液を送れるようにしていきます。心臓に血液を満たすと、止まっていた心臓は再び動き出しますが、動き出したばかりの心臓は元気がありません。しばらく人工心肺でサポートをして、心臓の動きを助ける強心剤などの薬を使うと、だんだんに元気が出てきます。自分の心臓だけで十分に血液が送り出せるようになったら、人工心肺を止めて、人工心肺と血管とつないでいた管を抜きます。

止血をする

血液の流れている心臓や血管を縫うため、他の臓器の手術も出血は多いです。なるべく輸血を使わないように、また、傷を閉じた後に心臓の周りに血液がたまらないように、十分止血を行います。

ドレーンを入れる

手術で縫った心臓や血管からは、手術が終わっても多少は出血します。この出血が心臓を包んでいる「ふくろ(心膜)」の中で心臓の周りにたくさんたまってしまうと、心臓を圧迫して心臓の動きが悪くなってしまいます(このことを専門用語では「心タンポナーデ」と言います)。このようなことがないように、心臓のまわりにたまった血液を、からだの外に出せるように管をいれておきます。この管を「ドレーン」といいます。

手術のあと数日間、これをいれたままにしておきます(いれたままにする期間は状況によって変わります)。

一時的(体外式)ペーシングワイヤーを入れる

心臓の手術の後、不整脈が起こることがあります。「一時的ペーシングワイヤー」は不整脈が起こった時、脈がゆっくりなった時などに、体の外からペーシング(=心臓に電気の「ムチ」を打つこと)することで心臓を動かすためのものです(使用しないこともあります)。

「ペースメーカー」というと「からだの中に機械をいれること」を想像されるかもしれませんが、手術のあとの「一時的ペーシングワイヤー」は、あくまで「一時的」ものです。心臓の状態が落ち着いて不整脈が出ないようであれば、退院する前に抜きます。

まれですが、手術の後に極端に脈が遅い時や不整脈が続いた時は、体の中に機械を植え込む「植込み型永久ペースメーカー」が必要になることもあります。

傷を閉じる

心臓の手術が全て終わり、あとは傷を閉じるだけ、という状態になったら、まず最初に切った胸骨を閉じます。赤ちゃんや小さい子は糸で、少し大きくなったら針金で、真ん中で切った胸骨を元のとおりにくっつけて固定します。この糸や針金は後で抜き取ることはありませんが、特に問題ありません(※)。

皮膚は抜糸しなくてよいように、皮膚の外に糸が出ないような縫い方で縫います。また、時間がたつと溶ける素材でつくられた糸(吸収糸)で縫うことが多いです(皮膚の状態によっては縫い方や糸が異なります)。

時々、特に生まれたばかりの赤ちゃんなどに大きな手術をした後、心臓がかなり元気がない状態だったり、心臓がむくんでしまったりした時、胸骨を閉じると心臓の動きがさらに悪くなってしまうことがあります。このような時は、胸骨を閉じず、骨にすき間を作ったままで手術を終わることもあります。集中治療室で心臓の調子がよくなり、心臓のむくみがとれたら、改めて胸骨を閉じる手術を行います。

※ 胸骨をくっつけて固定する針金は、チタン製とステンレス製が主に使われます(現在多く使われているのはチタン製です)。チタン製は、金属アレルギーが起きにくく、将来MRIを撮る時にも問題なく、空港などの金属探知器でもほとんど反応しません(まれに反応することがありますが、手術で金属が入っていることを説明すれば問題ありません)。

集中治療室へ

心臓手術の後は集中治療室(ICU)に移動します。面会などについては、各病院の対応をご確認ください。

あなたにとって最もよい治療法を、

主治医の先生とよく相談して決めましょう。

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