1.フォンタン手術について知る前に
この中でも、おさえておきたい大切なポイントが2つあります。
1)正常では動脈血と静脈血は混じらない
なぜ心臓は左右に分かれているか?というと、酸素を効率よく全身に届けるために、酸素の少ない静脈血と、酸素の多い動脈血が混じらないようにするためです。
2)全身の臓器に血液を送るためのポンプは絶対必要
正常では、左心室、右心室と心室が2つあり、左心室は全身のたくさんの臓器に血液を送るためのポンプ、右心室は肺に血液を送るためのポンプです。全身に血液を送るためのポンプは絶対必要、ということはフォンタン手術を知るために重要です。
全身の臓器に血液を送るためのポンプは絶対必要
POINT!
2. どうしていろんな形の心臓があるの?
先天性心疾患の中には、たくさんの病気の種類があります。そして、それぞれの病気によって心臓の形はちがいます。どうしていろんな形の心臓があるのでしょうか?
音声が出ます
動画で説明したとおり、心臓ができるまでの途中のどこかで、少しずつ違う形になることで、いろんな心臓の形ができるため、たくさんの種類の病気があります。
その中でも、
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右心室や左心室が1つずつあるのではなく、どちらか一つしかない(単心室症)
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右心室や左心室のどちらかがとても小さい
(左心低形成症候群、三尖弁閉鎖症など) -
右心室と左心室の間の穴を手術で閉じるのがとても難しい
(一部の両大血管右室起始症など)
といったの心臓があります。
ここで重要なポイントは、いろんな形の心臓の中には使える心室が1つしかない形の心臓がある、ということです。
いろんな形の心臓の中には使える心室が1つしかない形の心臓がある
POINT!
3. チアノーゼって何?
もう一つ、フォンタン手術について知るために重要なことは「チアノーゼ」です。
動画では「チアノーゼ」はどのような状態なのか、どうしてチアノーゼの症状が出るのかを説明しています。
音声が出ます
フォンタン手術が必要な心臓の形のほとんどがチアノーゼ性心疾患です。チアノーゼをそのままにしておくと、日常生活が徐々につらくなり、階段が登れない、少し動くだけで息切れがするなどの症状が出たり、腎臓が悪くなったり、血痰が出たり、脳梗塞になったりする可能性があります。
このため、チアノーゼ性心疾患の手術の目標の1つは「チアノーゼをなくすこと」であることが、重要なポイントです。
チアノーゼ性心疾患の手術の目標の1つ =
チアノーゼをなくすこと
POINT!
4.フォンタン手術ってどんな手術?
フォンタン手術を知るためのポイントをまとめると、このようになります。
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心臓が左右に分かれているのは、全身に酸素を効率よく届けるために、静脈血と動脈血が混ざらないようにするため
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右心室は肺へのポンプで、左心室は全身のたくさんの臓器へのポンプ。全身に血液を送るポンプは絶対必要
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いろんな心臓の形の中に使える心室が1つしかない形がある
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チアノーゼをそのままにしておくと、いろいろな症状が出てくるため、チアノーゼをなくことが手術の目標の一つ
その答えは「1つしかない心室は左心室(全身へのポンプ)として使って、右心室(肺へのポンプ)は、なしにする」流れにすることです。この流れのことを「フォンタン循環」と呼び、この流れにする手術を「フォンタン(型)手術」と呼びます。
フォンタン(型)手術 =
「フォンタン循環」という血液の流れにする手術
使える1つの心室は全身へのポンプとして使い、肺へのポンプはなし
使える心室が1つしかない形の心臓は、単心室症、左心低形成症候群、三尖弁閉鎖症や両大血管右室起始症など、いろいろな病気の種類がありますが、これらの病気でチアノーゼをなくすための手術は全て「フォンタン手術」になります。
5. どうして何回も手術が必要なの?
フォンタン手術をする前に、複数回の手術が必要です。手術の回数は少ないほうがいいのですが、なぜ何回も手術が必要なのか?については、動画をごらんください。
音声が出ます
動画で説明していますが、先天性心疾患の手術のおもな目標は、
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心臓に負担の少ない流れにすること
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チアノーゼをなくすこと
です。この目標を達成するための手術を「修復術(しゅうふくじゅつ)」
そしてその修復術の準備手術を「姑息手術(こそくしゅじゅつ)」
と言います。
なお、修復術のことを、以前は「根治術」と呼んでいましたが、根治術と呼ぶと「完全に治った!」と思って病院に通わなくなってしうまうことがあるので、最近は「修復術」と呼ぶようになりました。
使える心室が1つしかない形の心臓の場合、修復術は、チアノーゼのなくなる手術、つまり、フォンタン手術が修復術になります。
使える心室が1つしかない形の心臓では…
フォンタン手術 = 修復術
「どうして何回も手術が必要?」の動画にあるように、よりよい状態でフォンタン手術を行うためには、肺の血流をちょうどいい量にしておくことはとても大切です。肺の血流が多すぎたり、少なすぎたりすると、フォンタン手術の後にあまり具合がよくなかったり、フォンタン手術ができなかったりします。
特にフォンタン手術の前は
姑息手術で肺の血流をちょうどいい量に
しておくことが重要です
6. 両方向性グレン手術ってどんな手術?
フォンタン手術をする前に、ほとんどの場合「両方向性グレン手術」を行います。
フォンタン手術をすると、もともとの流れから、右心室を使わない流れに大きく変化するため、フォンタン手術を行う前に上半身だけをフォンタン手術の流れにして、体が慣れてからフォンタン手術を行ったほうがよいということがわかり、現在は、フォンタン手術の前にほぼ必ずこの手術を行うようになりました。
両方向性グレン手術 = 上半身だけフォンタン手術
両方向性グレン術
フォンタン手術
7. 手術のタイミングは?
フォンタン手術までのおおまかな流れをまとめると、下の図のようになります。
両方向性グレン手術は、生後3ヶ月以降で体重5kg以上、フォンタン手術は体重10〜15kgぐらいを目安に行いますが、病状によって違います。
8. フォンタン手術はいろんな種類があります
フォンタン手術は、1971年に世界ではじめて成功してから、いろいろな新しい手術方法が改良されてきました。以前は「心耳-肺動脈吻合法(APC-Fontan)(図A)」が多く行われていました。その後「ラテラールトンネル TCPC(図B)」や「心外導管によるTCPC (extracardiac TCPC)(図C)」が開発され、現在は、心外導管によるTCPCが一番多く行われています。
これらの手術をまとめて「フォンタン型手術」と呼ぶこともあります。
A: 心房・肺動脈吻合法
(APC-Fontan)
B: ラテラール・トンネル
TCPC
(心房内側方トンネル法)
C: 心外導管によるTCPC
(extracardiac TCPC)
※TCPC: Total cavo-pulmonary connectionの略
9. 右心室がなくても肺に血液は流れるの?
フォンタン手術は右心室(肺へのポンプ)は、なしにする流れですが、右心室がなくても、本当に肺に血液は流れるのでしょうか?
肺を「小さい家」、全身を「大きなマンション」だとします。
全身=大きなマンション
肺=小さい家
それぞれに水道管から水が流れるようにするためにはポンプで水をくみ上げる必要があります。「小さい家」はパワーの弱いポンプでも流れますが、「大きなマンション」は強力なポンプが必要です。このため、使える心室が一つしかなければ、全身へのポンプに使う必要があります。
フォンタン手術をすると、肺(=小さい家)のポンプがなくなってしまいます。そのかわりに、マンションを少し高台に建てて、小さい家にポンプがないかわりに、高さの差で水が流れるようにするイメージです。
肺の前にあるタンクが少し高いところにあることで、肺へのポンプがなくても高さの差で肺に血液は流れます。
10. フォンタン手術は手術のあとが大事!
「9. 右心室がなくても肺に血液は流れるの?」で説明したとおり、肺に血液が流れるためには、高さの差による圧が必要です。
ただし、肝臓や腎臓、腸などから血液が戻るタンクが少し高いところにあることで、ふつうよりも少しだけ、肝臓や腎臓、腸などから血液が戻りにくい状態が続きます(医学用語では「うっ血」と言います)。
具体的な数値を言うと、正常で地面の高さに置かれたタンク(右房圧)は5〜10mmHgですが、フォンタン手術によって少し高いところに置かれたタンクの圧は8〜15mmHgぐらいになります。わずかな差ですが、10年、20年と長い期間うっ血が続くと、肝臓や腎臓、腸などが悪くなることがあります。
右心室がなくても肺に血液は流れますが、やはり、右心室がないことは正常の血液の流れとは違うため、手術のあとの普段の体調管理がとても大事です。なるべく「うっ血」にならないようにするために3つの大事なことがあります。
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1つしかないポンプを大事にする
フォンタン手術の後は、1つしかないポンプで全身にも肺にも血液を送っています。1つしかないポンプが悪くなってしまうと、血液がうまく回らなくなってしまうため、無理をし過ぎない、疲れたら休むなど、ポンプが長く元気で使えるように大事にしましょう。 -
適度な運動をする
いろんな臓器だけでなく、手や足にも血液は流れます。手や足の筋肉が弱くなると、血液がもどりにくくなるため、やりすぎは禁物ですが適度な運動をすること、特に足の筋肉を鍛えることは大事です。 -
肺を大事にする
フォンタン手術の後は、肺に血液が流れやすいことが一番大事です。肺に血液が流れにくくなるなると、タンクの高さもっと高くしなければならず、つまり、うっ血は悪くなります。肺を悪くするようなタバコは絶対にやめましょう。また、普段から腹式呼吸を意識的に行うのも効果があります。
他、ふだん気をつけることとして、脱水にならないように水分はこまめにとるようにしましょう。フォンタン手術の後は、水中にもぐるのはよくありません。また、息を吹き続けるような楽器はフォンタン手術の後はやめておいたほうがよいです。
手術が終わったあとの経過は、それぞれの病状で違います。手術をしてしばらくしてから(多くは10年後以降)何か問題があってもう一度手術をしたほうがいい時、不整脈などの治療が必要になる時などがあります(表1)。必ず専門医に定期的にかかるようにしましょう。
「特に症状がないから」といって定期的に病院にかからないでいると、急に具合が悪くなって受診した時には、かなり病状が悪くなっていることがあります。
悪くなってから受診すると、薬や手術などの治療を行っても悪い状態が続いたり、治療ができないほど悪くなっていたりすることもあります。
参考ページ
表1:フォンタン手術後に問題となること
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不整脈
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血栓(心臓の中などに血液のかたまりができる)
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肝臓や腎臓がうっ血で悪くなる
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腸のうっ血で栄養を十分に吸収できなくなる
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心臓自体の機能が悪くなる
など
フォンタン手術のあとは、人工血管などの人工物を使うため「感染性心内膜炎」になることがあります。感染性内膜炎は、時に長期間の入院や、命にかかわるような大手術が必要になることもある、恐ろしい病気です。注意することなどについては下記のページで説明しています。
参考ページ
また、フォンタン手術後の人が成長して、妊娠・出産を考える年齢になった時に、気をつけてほしいことについては、下記のページをごらんください。
参考ページ
ずっと元気でいられるように、通院や内服の継続が必要な場合は、必ずきちんと病院にかかるようにしましょう。
あなたにとって最もよい治療法を、
主治医の先生とよく相談して決めましょう。
最終更新日:2024.01.31